皆さんの会社ではFAXという機械が現役バリバリで稼動してますか?
こんにちは! 松田軽太です。
日経コンピューターの2019年7月11日号に『受発注革命 迫る「2023年問題」、今こそシステム刷新の絶好機』という煽りまくった特集記事が掲載されていました。
このタイトルだけ見ると「またコンピューター業界の○○年問題が増えたなぁ~」といささか食傷気味に思っていました。
たくさんありますよね?
「2025年の崖」とか「SAP保守切れ2025年問題」とかね。
たいていの「○○年問題」はWindowsOSなどソフトウェアの保守切れとかIT人材不足とか時代遅れシステムの保守困難といったネガティブな理由です。
おまけにシステム刷新してところで、業務が劇的に改善できるとか大きなメリットもなく、巨額の費用が掛かるだけなので経営層が嫌がる内容ばかりです。
そういうことの積み重ねが「情シスは金食い虫」と揶揄される原因でもあります。
しかし今回の「2023年問題」はちょっと趣きが異なるように感じました。
では「2023年問題」とはどんな問題なのでしょうか?
2023年10月から始まるインボイス制度ってなんなん?
まずなんで「2023年問題なのか?」というと、2023年10月にインボイス制度が導入されるのです。
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。
ちなみに「インボイス」とは請求書や納品書のことです。
2019年10月に軽減税率の導入が予定されていますが、商品の種類によって税率が異なります。
食品は8%据え置きだけど、店内飲食だと10%になるとか、ややこしくて揉めてますよね。
なので軽減税率が導入されると税率毎に税額計算を行う必要があるのです。
となると税率区分ごとに明細を分けなくてはいけないので、品目マスタとか商品マスタに税率を設定して納品書は請求書に明記しなればならないってことです。
今のように一律8%だったら、請求書の合計金額に対して8%を掛ければ算出できたので、これ、かなり大変な作業になりますね。
2024年1月にはISDNが廃止される
2024年1月にはISDNが廃止されます。
そう聞くと「今さらISDNなんか使ってるのって少ないんじゃないの?」と思われるかもしれませんね。
一般家庭でISDNを使っている人は減ったかもしれませんが、企業間取引でのEDIという電子データでの取引システムではまだまだ現役なのです。
ということはISDNという通信インフラが廃止になる前にEDIという電子取引のシステムも刷新する必要があります。
そしてISDNの廃止は2024年1月ですから、新システムの構築は2023年中には完了させていかなくてはなりません。
こうして考えてみると2023年って慌しく準備をしなくてはならない年なのですね。
2025年にはSAP R/3が保守切れになる
そして更にその翌年の2025年にはドイツ製高級ERPのSAP R/3の保守切れが待ち構えています。
SAP R/3のユーザー企業は日本に2000社くらいありますが、SAPユーザーは大企業が多いので、巨大で複雑な基幹システムばかりです。
その2000社が一斉に新システムに刷新しなければならないので大変です。
まずSAPを導入できる知見や技術を持ったコンサルやエンジニアが不足するでしょう。
SAP R/3を刷新するといっても、新しいSAP S/4HANA に移行するのか、別のERPに乗り換えするのか、検討することは山ほどあります。
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『中小企業共通EDI』は課題解決の救世主になるか?
どうせ刷新しなくてはならないのだったら、これらの課題をまとめて一気に解決したいですよね。
そこで注目を集めているのがITコーディネーター協会が2018年に考案した『中小企業共通EDI』なのです。
さっそく「中小企業共通EDI」でググってみると下記のサイトが見つかりました。
共通EDIとは | つなぐIT:企業間商取引(中小企業共通EDI)
tsunagu-it.com
ITコーディネータ協会のサイトの説明を見てみましょう。
■中小企業共通EDIとは
「中小企業共通EDI」は共通EDIプロバイダが多様な発注企業の取引情報フォーマットを、共通EDIメッセージフォーマットに変換し、さらに受注企業へはCSVフォーマットに再変換して「シングルインターフェース」で受信できるサービスを提供する新しい仕組みです。
共通EDIプロバイダ間は国連CEFACTのメッセージでやり取りするので発注企業、受注企業はどこの共通EDIプロバイダを利用してもEDI取引ができるようになります。
WEB-EDIの弱点を解消し、WEB-EDIやFAXの置換えを可能とする次世代EDI方式です。
https://tsunagu-it.com/cons/about_edi/ から画像を引用
この仕組みのポイントは「共通EDIでFAX取引が変わる」という部分でしょう。
もしかしたら、中小企業共通EDIが普及することで、日本企業に長らく残っているFAX受注業務を廃止することができるかもしれません。
FAXは時代遅れの象徴なのか?
記事の冒頭にはこんな風にFAXが紹介されています。
米スミソニアン博物館に産業遺産として展示されているのに日本では今も現役・・・。
ファクシミリ、通称「FAX」のことです。
欧米メディアなどにこう皮肉られてから数年経っても、実態は変わっていません。
居酒屋から町工場、大企業まで多くの会社が商材の受発注などに使っています。
FAXは紙によるアナログ業務の象徴であり、もっと言えば非効率の象徴です。
ということで「スミソニアン博物館 FAX」でググったら、このブログ記事の見つけました。
このブログでは外国人CFOが「なんで日本ではイマドキ、化石のようなFAXをみんなが使っているのか?」と驚いていたというエピソードが紹介されています。
この他にも面白いエピソードがたくさん見つかりますので、お暇があれば「スミソニアン博物館 FAX」でググってみてください。
花王が受発注改革でFAX一掃作戦を実施した
この記事でのメインは日用品の巨大メーカーである花王が実施した受発注改革でのFAX一掃作戦です。
さすがに花王のような巨大企業にもなると5000社もの取引企業あります。
日経新聞にも記事になってますね。
取引先の中には中小企業も多く、まだまだ受発注をFAXに頼っているのです。
割合的には6割で1400枚ものFAXが毎日届いているのだとか。
もちろん全ての取引先がFAXでも受発注しているわけではなく、それなりに大きな取引先ではWEB-EDIを運用しています。
しかしWEB-EDIは各社各様に仕様がことなるので、ダウンロードしたCSVデータも共通にはなっていないので、いちいち変換したりする手間があります。
そこで花王では中小企業共通EDIを活用して取引先と花王の双方で業務効率化するシステムを構築したのです。
簡単に説明すると花王の取引先企業は従来、FAXで送信していた内容を花王側が用意した発注入力画面に入力します。
花王側では発注入力画面のデータを取り込んで自動的に受注処理を進めるというものです。
要する今まで取引先がExcelとかに入力してFAX送信していたデータをWEBを使った発注画面に入力してもらうことで紙とFAXから脱却したという事例ですね。
2019年のうちに1000社を超える取引先へ中小企業共通EDIのシステムへの切り替えを進めていくとのことで、来年あたりから一気に導入社数が増えていくのでしょう。
とはいえこの事例、花王のような巨大企業だから、各取引先に導入してもらえることができたともいえます。
何しろ中小企業は目先の発注に対応するのに手一杯なので、いくら将来的にメリットがあるといっても仕事のやり方を変えるのには抵抗があるハズですから。
中小企業共通EDIのメリットは?
中小企業共通EDIのメリットはなんといってもFAXという紙文化からの脱却でしょう。
今までの作業手順は
発注者側
『発注内容を発注システムに手入力』→『発注書を印刷』→『発注書をFAX』
受注者側
『FAXを受信』→『FAXを仕分け』→『受注内容を受注システムに手入力』
と、こんな手順で運用されています。
FAX運用の大きなリスクはFAXの送信間違いとFAXの紛失ですが、それもデータで行えば撲滅できます。
ただし、FAX運用を作業者が好む大きな理由は「FAXだと紙なので受注が届いたのか誰でも分かるがデータだと担当者以外に分からないので属人化する危険性がある」というのはよく言われます。
とはいえ、ここで挙げられている危険性と毎日の作業を効率化する方と、どちらを優先させるべきかと考えたら、毎日行う作業を優先させるべきでしょう。
人は今までの慣れたやり方を少し変えようとするだけでも、変えたことによって発生する些細なリスクも過剰に大きく評価してしまうものです。
もちろん、作業のやり方を変えるのだから、何がしかのリスクが発生することもあるでしょう。
それであれば新たに発生したリスクへの対策を考えればいいだけの話です。
更に中小企業共通EDIが業界に浸透していけば、今までように会社ごとに異なるWEB-EDIシステムが乱立することで似たような処理を会社ごとに作り直すという無駄が業界全体で改善されます。
各社独自のWEB-EDIなんか作ったところで、やってることはほとんど同じです。
それであれば、業界全体で共通化して、事業の競争は提供する商品とかサービスで行うべきです。
中小企業共通EDIで受け取ったデータを自動で登録する方法
中小企業共通EDIのデメリットは何でしょうか?
あるとしたら今までFAXで送られてきた発注書を見ながら、受注システムの画面から手入力していた部分がデータとして受け取れるので、受注システムへのデータ入力をどうするかでしょう。
せっかくデータで送られてきた発注データをわざわざ印刷して発注画面に手入力していたのでは、むしろデータを印刷するという作業が増えてしまいますよね。
そういう場合はRPAを使って発注システムの画面に入力するロボットを作ったり、EAIツールという他システムデータ連携システムを活用するという方法があります。
ちなみにEAIツールで代表的なサービスは ASTERIA Warp ですかね。
こういう提案を聞くと「データ変換とか入力の部分でRPAなどを導入すると今よりも費用が増えるじゃないか。やはり今まで通りにFAXでの運用が良い」と拒否反応する人もいます。
しかし、これからの日本は今以上に人手不足が加速します。
RPAやEAIツールなどを導入すると少しばかり費用は掛かりますが、貴重な従業員をRPAといったロボットでも代替できるような繰り返し作業に従事させるのは、人材活用としてモッタイナイと考えるべきです。
変化に対応する基盤を作るべき
ということで中小企業共通EDIの活用について書いてきましたが、せっかく国を挙げて共通化する仕組みを提供してくれるのだからこの機会にそれに乗ってしまうのもひとつの手でしょう。
問題の本質は「FAXが良いとか悪い」ではありません。
これから先は紙を基本にしたアナログ作業がどんどんデータ化されていくのは、もう世の中の流れとして逆らえません。
今以上に人手不足でAIやロボットといったデジタル化が進むでしょう。
そういう時代に手書きの作業が残っているとアナログからデジタル化への変換作業というひと手間が発生します。
あるいは外国人労働者に頼ることになるかもしれません。その時、ネックになるのは日本語で書かれた手書き伝票でしょう。
日本語が読める外国人であっても書きなぐったような手書き伝票を読めるとはとても思えません。
FAXや手書き伝票という運用が通用していたのは、日本人だけで仕事をしていた時代の運用なのです。
これからロボットや外国人と共に仕事をしていく時代になることを考えたら、業務全体のデジタル化を考える良い機会だと思います。