松田軽太のブロぐる

企業の情シスで働いています。会社の中では何をしてるのかナゾな職場の情シスあるあるなどや読んだ本のことなどを思いつくままに書いています。

【スポンサーリンク】

老舗旅館『陣屋』が実行した驚くべきICT経営革命【SalesforceによるDX事例】

【スポンサーリンク】

f:id:matuda-kta:20190903230831j:plain


昨今、デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉をアチコチで見かけますが、イマイチ、漠然としていてどういうものなのかピンとこない人も多いのではないでしょうか?

 

こんにちは! 松田軽太です。

 

 デジタル・トランスフォーメーションとは

 

そもそもデジタル・トランスフォーメーション(DX)の定義ってなんなのでしょうか?

 

WIKIで調べてみるとこのように書いてあります。

 

デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation; DX)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。

 

2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる 。

ビジネス用語としては定義・解釈が多義的ではあるものの、おおむね「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられる。

 

私たちが会社で求められているデジタル・トランスフォーメーション(DX)は後者の

企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」でしょう。

  

しかしこれだけでは、まだまだ漠然としています。

 

さらにWIKIを読み進めると、こんな説明がありました。

 

ガートナー社による定義 

ガートナー社は「デジタルビジネス」という概念を用いる。 

ガートナー社によれば、企業内のIT利用は三段階ある。

 

・業務プロセスの変革

・ビジネスと企業、人を結び付けて統合する

人とモノと企業もしくはビジネスの結び付きが相互作用をもたらす

 

ガートナーはこの第3段階の状態をデジタルビジネスと呼び、「仮想世界と物理的世界が融合され、モノのインターネット(IoT)を通じてプロセスや業界の動きを変革する新しいビジネスデザイン」(2014 年) と定義している。

 また、このデジタルビジネスへの改革プロセスを「デジタルビジネストランスフォーメーション」と定義している。

  

こちらの内容の方がより具体的だと感じます。

 

「仮想世界と物理的世界が融合され、モノのインターネット(IoT)を通じてプロセスや業界の動きを変革する新しいビジネスデザイン」 

 

企業が求めているデジタル・トランスフォーメーション(DX)とはこういうことなのでしょう。

 

 DXは小さな会社でも出来る

 しかしデジタル・トランスフォーメーション(DX)というと「GAFAのような巨大企業が巨額をかけて開発するものだから、自分の会社のような規模では到底できっこない」と思っている人も多いのではないでしょうか?

 

ところが小さな会社でもデジタル・トランスフォーメーション(DX)を実現することは可能なのです。

 

ということで今回は小さな会社のDXとして『老舗旅館 陣屋」でのDX事例』をご紹介したいと思います。

 

  老舗旅館『陣屋』とは? 

『元湯 陣屋』は神奈川県鶴巻温泉の老舗旅館です。

 

www.jinya-inn.com

 

 

その自然に包まれたロケーションの素晴らしさはサイトからも伝わるほどです。

陣屋には1万坪もの広大な庭園があり、四季に彩られた景色を楽しむことができます。

 

https://www.jinya-inn.com/mediagallery/mediaobjects/orig/f/f_garden.jpg

 

 なぜ老舗旅館がICTで経営革命する必要があるか?

 さて、そんな由緒正しい老舗旅館とIT革命って普通に考えたらまったく接点がないように思いますよね?

 

もちろんそれには理由があるわけです。 

キッカケは経営者が病気のため経営から引退されたことでした。 

 

そこで社長の長男夫妻が急遽、陣屋の経営を引き継ぐことになったのです。

 しかし家業が旅館だからといって、旅館を経営するというのはまた別の話です。

 

長男の近藤富夫氏は自動車会社のホンダでエンジニアをされていたのです。

現在、代表取締役であり女将である宮崎知子さんも旅館とは縁もゆかりもないリース会社の営業職です。

 

そんな旅館業ド素人の二人がいきなり老舗旅館を経営することになったのですから、順調なワケがありません。

  

陣屋を引き継いだ当初は絶望的な逆境しかなかった

 

f:id:matuda-kta:20190903230618j:plain

 

陣屋の経営を引き継いだ当初、借入金は10億円もありました。

おまけに運転資金は半年でショートするような状態です。

 

鶴巻温泉は温泉街としては魅力を失いつつあり客足は遠のいていました。

なんせ17軒もあった旅館は3軒にまで減っていたのです。

 

しかも引き継いだのは2009年のリーマンショックが真っ盛りの時代です。

ちょうどみんな先行きの見通しがきかない不景気で温泉旅行どころではなく財布の紐もぎゅーっと絞められてるような状況なので売上げなどあがる見込みはありません。

  

老舗旅館ではありますが寂れ始めた温泉街の老朽化した旅館には救いの手はなく

M&Aも上手くいかず、おまけに女将の宮崎知子さんは2ヶ月後には出産予定で、

もう絶体絶命のピンチの状態からのスタートです。

 

どんな罰ゲームだよ?」とツッコミを入れずにはいられません。

 

 老舗旅館は仕事のやり方も古い/ザ・どんぶり勘定 

 

f:id:matuda-kta:20190903231033j:plain

一か八かで旅館経営をすることになった近藤夫妻ですが、まず旅館でパソコンを

触ったことがあるのは1名程度。

 

顧客情報や支払情報のデータベースなどあるはずもなく、必要な情報はすべて従業員の

アタマの中にしかないのです。

 

なので当然、すべての帳簿管理はノートに手書きです。

『Excelの属人化』とか、そんな生やさしいレベルではない状況なのです。

 

月次決算は2~3人で2週間かけて集計します。

しかしこういうルーチン作業って「集計表を作ることが目的」になりやすいですよね。

 

集計表は「集計した結果で経営判断する」ことが本来の集計の目的ですが

いつしか「集計表を毎月、作る」が目的となってしまっていました。

 

あれ?皆さんの会社でもそんなことになってたりしませんか?

 

 モノ消費からコト消費へ 

 

2008年、1泊あたり13,800円でした。しかしホットペーパーなどのクーポン事業が

台頭してくると、クーポンが無ければ集客できなくなりました。

 

そのため2009年は1泊あたり9,800円まで客単価が下がり、利益なんか逆立ちしても

出ない状況になってしまいました。

 

旅館の部屋数は20部屋ですから、どんなに頑張っても20部屋以上にはならないわけです。

 

となると増築でもしない限り、いかにこの20部屋の回転を上げるか、そして客単価をあげるしか売上げをあげる方法はないのです。

 

もちろん、増改築に投資するような資金はありません。

なんせすでに10億円の借金があるくらいですから。

 

そこで陣屋は『貴賓室 松風』を活用するというアイデアを出しました。

www.jinya-inn.com

 

『貴賓室 松風』は明治天皇を迎えるために作られた特別な部屋で、将棋のタイトル戦も行われています。

この『貴賓室 松風』を一般のお客さんでも泊まれるようにするというアイディアを考えたのです。

 

それまで9,800円だった価格に対して『貴賓室 松風』の宿泊料金は78,000円です。

 

つまり価格勝負ではなく、特別な宿泊体験を行えるような付加価値戦略に転換したのです。

 

そして現在の宿泊価格は39,000円からとなっています。

booking.jinya-inn.com

 

 多すぎる従業員と硬直化した縦割り組織

 

 当時のパートも含めると従業員は120人もいました。

 

その理由は『人によって担当する作業』が決まっていたのです。

例えば「接客担当は接客のみ」「予約受付担当は予約のみ」といった感じです。

 

しかし、これでは空き時間ができてしまいます。

 

そこで人材のマルチタスク化(他能工化)に取り組みます。・・・が、当然、反発があるわけです。

「私はこの仕事しかやりたくない」とか揉めている光景が目に浮かびますよね。

 

創業100年を越える老舗旅館です。

長年続いた習慣を打破するのは並大抵のことではありませんよね。

 

このようなマルチタスク化や多能工化は製造業的な発想に感じます。

ご主人がホンダのエンジニア出身という異業種から参入が大きかったのではないでしょうか?

 

そして現在は40人で陣屋を廻すことができているのです。

 

 クラウド型旅館管理システム『陣屋コネクト』を自社開発 

 

f:id:matuda-kta:20190903231117j:plain


普通に考えたら120人で運営している組織を40人で運営できるワケがないですよね?

 

それを可能にしたのが『ICTのチカラを活用』したからなのです。

 

当初は陣屋でも旅館業にマッチした市販のパッケージシステムを探したのですが、なかなか陣屋にマッチしたパッケージシステムはありませんでした。

 

自社業務システムを独自で構築するとなると、莫大な金額が掛かります。

しかし借金まみれで倒産寸前の陣屋にはそんなお金などあるわけがありません。

 

そこで陣屋が目をつけたのがクラウドサービスのSalesforceです。

 

クラウドサービスであれば、サーバー機器を自前で用意する必要もないし、5年後のサーバーリプレースといった煩わしい作業も発生しません。

 

とはいえ2009年の話ですよ?

 

今でもこそSalesforceは大きな知名度がありますが、2009年当時はまだ事例も少なかったはずです。

 

それでもSalesforceを選択できたのはエンジニア気質によって徹底的に調べて「これならイケる」と判断できたからでしょう。

 

 ICTのチカラで『おもてなし力』を高める 

 

f:id:matuda-kta:20190903231142j:plain


ホテルオークラには伝説のドアマンと呼ばれた人がいました。


その伝説のドアマンは社用車で訪れるお客様の社用車を見て判別できるのです。そして社用車から会社の重役が降りてくると「○○様、お待ちしておりました」とお迎えするのだとか。

 

車から降りた途端に自分の名前を呼んでもらえると嬉しいですよね。

 

しかし、たくさんの会社の重役と社用車を覚えるなんて芸当は普通の人にはできません。

 

でもICTのチカラを使ったら可能ではないでしょうか?

 

そこで陣屋がトライアルしたのはIoTによるホスタビリティの向上でした。

 

駐車場の入り口に設置したカメラでナンバープレートを認識し、その情報から陣屋コネクトの顧客情報を参照します。


そして過去に宿泊履歴のあるリピート客の場合は社内SNSや音声通知でお客さんの名前や年齢といった情報がスタッフに共有されるのです。

 

このシステムを使えば、車を迎えながら「○○様、お待ちしておりました」というように伝説のドアマンのような接客が可能になります。

 

特に陣屋ではリピーター率を増やすことも意識的に行っているのです。つまり顧客満足度の向上です。

 

例えば前回、宿泊された際に伺った食べ物のアレルギー情報が顧客情報に登録してあれば、「○○様はカニが苦手でいらっしゃいましたが、その後、どうですか?」と声を掛ければお客さんは「ちゃんと自分のことを覚えていてくれたんだ」と嬉しくなるし、調理スタッフもカニの代わりになる食材で調理する予定を事前に立てられます。

 

そのほかにも陣屋には温泉場の管理をIoTで行っています。

 

1万坪もの広大な敷地を有する陣屋は温泉場の管理もけっこうな手間です。

IoTで管理する前は1時間ごとなど定期にスタッフが温泉場を見回りする必要がありました。

 

しかし温泉の水位や温度、タオルの使用頻度をIoTで管理することで、温泉場の状況が分かるようになり、必要なときだけ温泉場に出向けばよくなったのです。

 

詳しい内容はこちらのブログで説明されています。

journal.jinya-connect.com

 

このようなIoTを活用したシステムを陣屋では2016年から運用しているのです。

 

2019年の現在でもまだ多くの企業が「結局、IoTって何すれば良いの?」と活用のアイディアが出なくて困っていると思いますが、陣屋では3年も前にこのようなシステムを構築したのです。

 

もちろん、初めから上手くいくと確信を持ってやっていたワケではありません。

 

まずはアジャイル的にトライすることが大切なのです。

 

幸い現在はクラウドサービスが充実しているので、初期投資は少なくて済みます。

思い立ったらすぐにトライすることができる環境が整っているので、さっさとトライすべきです。

 

 旅館なのに週休3日を実現

 

 一般的にホテル・旅館業の離職率は高いと言われています。

2014年に厚生労働省が行った調査によると宿泊・飲食サービス業の離職率は52.3%です。

 

いくらホスタビリティを向上させて顧客満足度が上がっても、働いているスタッフが疲弊しては事業が継続できません。

 

そこで陣屋は週休3日にすることにしたのです。

 

営業日数を減らすということは売上げが減ってしまうという心配があり、銀行や従業員からも反対の声があがりました。

 

しかし結果として実際に客単価も引き上げできています。

 

その結果、2010年に2.9億円の売上げだったのが現在では7.3億円にまで上がったのです。

 

事実、陣屋のスタッフの平均年収は288万円から400万円まで上がっています。

全国の旅館業の平均年収が280万円なので4割くらい給与が高いのです。

 

そして陣屋の離職率も33%から4%に激減したのです

 

 陣屋コネクトを同業者にも提供 

 

陣屋の業務を支える陣屋コネクトですが、今では300もの旅館が利用するプラットフォームにまで成長しています。

 

機能も実に豊富で予約管理、顧客管理、社内SNS、設備管理、勤怠管理、会計管理、売上管理、経営分析と旅館運営に必要な機能がオールインワンで提供されています。

 

しかも入力は一度きりで、転記やコピペは不要というのがコンセプトです。

なので帳簿やExcel管理すら不要なのです。

 

単に自社の業務を改革するだけでなく、そのノウハウを詰め込んだ旅館管理システムを同業者に開放しているのです。

 

そして費用は月額3500円と安価です。年額に換算しても42000円です。

おそらく自社だけで旅館管理システムを構築したら数千万円は掛かるではないでしょうか?

 

そして陣屋だけでクローズしたシステムであったら、ある程度、開発した時点で発展することは無かったでしょう。


敢えて陣屋コネクトを外販することで、他の旅館からの要望も機能に取り入れることができ、旅館管理に特化したシステムとして成長し続けることができるのです。

 

www.jinya-connect.com

 

 陣屋は『小さくても勝てる』ということを実証している 

 

デジタル・トランスフォーメーション(DX)というと『AIやIoTといった最先端のデジナル技術を活用した「攻めのIT」で経営を支援』といった謳い文句をアチコチで見ます。

 

ことによると「デジタル・トランスフォーメーション(DX)を行うためのプロジェクト」といったように目的がオカシナ方向に向かっている場合もあるのではないでしょうか?

 

陣屋のケースは極めて希ではあるのでしょう。 

 

もし陣屋の経営が順調であれば宮崎富夫さんが陣屋を継ぐこともなく今でもホンダで技術開発をしていたでしょう。

 もし宮崎富夫さんではなく、他の人が引き継いでいたら陣屋コネクトは生まれなかったでしょう。

 

 そう考えると陣屋コネクトが生まれたのも「必要があったから」なのです。

 

なので「DXで何かする」という発想ではなく「この課題を解決できる方法は何かないか?」という発想をする必要があるのですね。

 

陣屋さんでググってみたら、詳細なPDF資料が公開されていました。

『クラウドサービス活用による旅館改革への挑戦』

興味のある方はこちらもご覧ください。

 

 

小さくても勝てます

小さくても勝てます

 

 

 

町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由

町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由

 

  

最高のおもてなしは従業員満足から生まれる DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

最高のおもてなしは従業員満足から生まれる DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

 

 

【スポンサーリンク】