日経コンピューターでお馴染みの木村岳史氏といえば、SIerや情報システム部に対してのキツい説教が名物になってますね。
こんにちは! 松田軽太です。
さて、そんな怖い木村岳史氏の著者『SEは死滅する』という、企業の情報システム部にとっては聞き捨てならない不吉なタイトルの本を読んでみました。
『SEは死滅する』での大きなテーマは「このままガラパゴスなカスタマイズ地獄のERPを使い続けている日本企業は、ITを事業に活用できずに世界から取り残される」という警告です。
木村氏は口は悪いけど、心配だからこそ説教をしてるのです。
なぜ日本の会社はERPを導入しても業務改革をできないのか?
Twitterでこんな記事を見かけました。
まるでAIブーム、業革の秘密兵器と期待された「ERP」:日経ビジネス電子版
20年前、ERPブームというものが起こりました。
ERPとは統合管理システムというものです。
それまで各部門や各拠点や各工場ごとに部分最適化でバラバラに構築されていた業務システムをERPに統合して一つのデータベースに集約管理することで、経営に必要な情報を素早く見えることができるようになります。
そして業務システムを統合するにあたり、仕事自体もERPに合わせて標準化することで、合理的になるのです。
つまり情報の統合を行いつつ、業務改革を行うことができる夢のシステムだったのです。
・・・夢のシステムと書いたということは、夢のまま終わったということでもあります。
そして今では『2025年の崖』という悪夢に悩まされているワケですが・・・。
ERPを導入しても業務改革はできなかったのが日本
残念ながらERPを導入しても、日本の会社では業務改革は実現できませんでした。
「ERPを導入して、世界標準の仕事の仕方に合わせるぞ!」というかけ声は良かったのですが、いざ、ERPの機能と実業務を比べてみると、けっこうな量の仕事がERPとマッチしません。
これを「FIT&GAPの調査」なんて言ったりしますが、まぁ、たいていはGAPだらけです。
それはそうですよね。
今まで現場任せの改善を進めてきたのだから、部分最適化されてるワケで標準化とは真逆になっています。
もちろん、現場任せの改善というのは、自分たちなりに工夫して作業を改善していった証しではあります。
しかし、それらの改善策は横展開されず、部分最適で終わっているから、似たような作業でも部門ごとに違ってしまっているのです。
場合によっては「これは俺らの考えたアイデアだから、他の部署にパクられたらたまらん!」というセクショナリズムもあったのでしょう。
では、そんな状況の中に突如、ERPとかいう謎の仕組みがぶち込まれたら、現場作業者はどんな反応を示すでしょうか?
そりゃ、大反発するに決まってますよね。
今まで長い時間をかけて、自分たちが仕事場しやすいように組み上げた仕事の仕組みが「そのやり方、世界標準じゃなくてオカシイから」と全否定されたら、ムカッとするのも仕方がないでしょう。
かくして現場からの大いなる抵抗を受けたERPは世界標準どころか、各現場の実情に合わせて、莫大な費用をかけて鬼のようなカスタマイズを施されたのです。
ERPやRPAは「人減らしの道具」という理解をしているか?
木村岳史氏の著者『SEは死滅する』の16ページでで、こう書かれています。
『ERPを導入する主たる目的は業務プロセスの標準化による一般管理費の削減だ。ERPでサポートする業務プロセスがベストかどうかは本質的な問題ではなく、一つの標準プロセスに整流化することで、重複業務のカットなどの効率化を図り、一般管理費を下げることを目指す』
そうです、ERP導入の本当の目的は一般管理費の削減なのです。
ところで一般管理費の削減って、何を削減するのでしょうか?
Wikiにはこう書かれています。
『一般管理費とは、総務や企業全体を運営し管理するために要した費用をいい、間接部門(人事・経理・役員など)の人件費(給与・賞与・諸手当)、間接部門が入居する事務所を運営するための費用(光熱費、家賃、減価償却費など)、租税公課、会社全体の福利厚生費、その他の経費(交際費・旅費交通費・通信費など)が該当する』
この中でERPで削減できそうな項目は何でしょうか?
交通費や家賃や光熱費が下がるとは思えませんよね。
つまり『人件費の削減』が目的なのです。
さらに『SEは死滅する』の33ページにはこう書かれています。
『欧米企業の経営トップの場合、リストラや人減らしに躊躇はしない。むしろ構造改革こそが自分の仕事と認識しているから、経営の見える化とともに業務プロセスの標準化による人員削減などのコストカットがERP導入の明確な目標になる』
今でこそ「40~50代のリストラ」がニュース紙面を大きく賑わしていますが、ERP導入ブームは20年前です。
当時はゴリゴリの終身雇用制ですから、ERPを導入して人員削減という発想はなかったでしょう。
せいぜいデータベース統合による経営情報の見える化くらいが目的だったのでしょう。
だから業務プロセスを統合できずに部門ごとに個別最適化した鬼カスタマイズを実施して、そして20年の後に「2025年の崖」と揶揄されている始末です。
そして今、流行のRPAの状況を見ても、ERPブームの頃と同じようなことになっていませんか?
なぜRPAは幻滅期に入ったと言われるのか?
3年くらい前から大手企業で大ブームとなったRPAですが、上場企業の8割で導入されたにも関わらず、そのうちの9割で効果がでていないと不満が噴出していると言います。
RPAの導入事例では「年間数万時間の削減」といった文字が必ず躍っています。
しかし、本当の意味で削減できたと言えるのでしょうか?
多くRPA事例で紹介された「年間数万時間の削減」では、その部署の人も仕事も変わってないとこが多いのです。
あれ? 削減したはずの数万時間ってどこにいっちゃったんですかね?
これではRPAの効果は一部の社員の残業時間が減った程度で終わってしまいます。
ERPと同じようにRPA導入も会社から見て成功だと言えるのは、一般管理費の削減という形で現れることなのです。
20年前と違い現代は超人手不足に陥ってます。
なのでERPもRPAも人員削減のために活用するというよりは、足りなくなった人員を埋めるための道具として上手く活用すべき時代なのでしょう。
改めてERPを正しく導入することで、それまで個別最適化されていた業務に対して業務プロセスの標準化を行い、その標準化された業務をRPAで自動化すれば、導入した意義もあるでしょう。