ソフトバンクの孫正義氏といえば日本の企業家の中では数少ない世界規模で活躍する事業家です。
こんにちは! 松田軽太です。
日経コンピューター2018年8月30日号の見出しにこんなタイトルが踊っていました。
「AIに10兆円、勝算は ~検証 孫正義の目利き力~」
なんとも面白そうなタイトルです。さっそく読んでみました。
ところでARMってどんな会社なの
ソフトバンクの大型投資で話題になったのは2016年7月のARMというイギリスの会社を3兆円という巨額で買収したというニュースです。
この当時、ITやデジタル系のニュースで一番話題になっていたのはポケモンGOでした。
それに比べるとARM買収のニュースは3兆円という金額の大きさばかりが話題になる程度でそれほど街中で大きな話題にはなっていなかった印象があります。
孫正義氏の勘のよさは当時、まだ無名だったアリババへの投資が巨額になって返ってきたことも話題になりました。
簡単にARMという会社を紹介しておきましょう。
ARMはスマホやタブレットのCPUなどの重要な部品を設計している会社です。
パソコンでいえばインテルに相当します。
なんとスマホやタブレットの9割にも及ぶ製品にARMの設計したCPUが採用されているのです。
スマホのCPUというとクアルコム社のスナップドラゴンを思い浮かべる人も多いと思いますがARMはスナップドラゴンを製造しているのではなく、CPUの設計データを提供するという形で関わっているのです。だからインテルのように知名度が高くないのです。
またARMの売上規模は1500億円程度です。インテルの売上が5兆円を超えているのに比べると随分と差がありますが、孫正義氏はARMの将来性に3兆円の投資をしたのです。
世界に広がる10兆円の投資先がスゴイ
日経コンピューターにはソフトバンクの投資先の会社が一覧表にまとめられていました。
■IOT基盤に合計18億ドル
ワンウェブ(衛星通信):10億ドル
ナウト(字度運転):1億ドル
マップボックス(地理情報):1億ドル
インプロバブル(VR、AR):5億ドル
OSIソフト(産業用IOT):不明
ライト(多眼カメラ):1億ドル
■シェアリングエコノミーに合計298億ドル
滴滴出行(ライドシェア):95億ドル
ウーバー(ライドシェア):77億ドル
ワグラボ(ペット散歩歩行代行):3億ドル
ドアダッシュ(食事宅配):5億ドル
ウィーワーク(共用オフィス):44億ドル
満幣集団(トラック配車):19億ドル
グラブ(ライドシェア):35億ドル
ラオ(ライドシェア):20億ドル
■AI、ロボット関連に合計379億ドル
アーム(半導体設計):310億ドル
エヌビディア(GPU開発):40億ドル
ブレイン(自動運転):1億ドル
スラック(ビジネスチャット):2億ドル
ボストン・ダイナミクス(ロボット):不明
GMクルーズ(自動運転):22億ドル
コヒシティ(ストレージ):2億ドル
プレンティ(野菜工場):2億ドル
■保険、医療関係に29億ドル
ガーダント・ヘルス(がん診断):3億ドル
平安医療健康管理(保険手続き):不明
平安健康医療科技(医療ポータル):4億ドル
ロイバント(医薬品開発):11億ドル
衆安在線財産保険(ネット保険):5億ドル
ビア(医薬品開発):5億ドル
サイエンス37(治験サービス):1億ドル
■金融関係に14億ドルガベージ(企業向け融資):2億ドル
ソーシャルファイナンス(学生ローン):10億ドル
ポリシーバザール(保険ローン):2億ドル
■EC、ネット予約関係に31億ドル
オート1グループ(中古車販売):5億ドル
ファナティクス(スポーツ関連EC):10億ドル
スナップディール(EC):不明
オヨルームズ(ホテル予約):2億ドル
ペイTM(決済):14億ドル
■建設、不動産関連へ13億ドル
カテラ(建築設計):8億ドル
アーバン・コンパス(不動産):4億ドル
ネマスカ・リチウム(鉱山開発):7800万ドル
・・・ざっと書き出してみましたが、ほとんどが初めて名前を聞く会社ばかりです。
世界を繋ぐ衛星通信網からIOT・自動運転までを網羅
たとえばワンウェブ。
この会社は超小型人工衛星によって地球全体をカバーする衛星通信会社です。
それだけなら他にもサービスがありますが、かなり高額です。
ワンウェブは低価格で世界を繋ぐことができるので、これからスマホが普及する発展途上国でも低価格で世界中に通信が可能となるサービスを提供する会社なのです。
そしてネマスカ・リチウムはリチウムイオンバッテリーの原料となるリチウムを精製する会社です。ご存知のように今後、電気自動車が普及すれば確実にリチウムの需要は上がっていくでしょう。
今後10年でリチウムの需要は5倍になると予想されており、世界中でリチウムの争奪戦が始まろうとしています。
そしておそらく目玉となるのは前述したARMとエヌビディアによるIOT基盤の制覇でしょう。
ARMはスマホはもちろんのことスマートスピーカーから自動運転車まで包含するIOTプラットフォームを構築しつつあります。
そしてエヌビディアは自動運転ソフトウェアを他社に先行して開発しています。
この二つの会社の技術が連携できれば、完全な自動運転車を作り上げることができるようになるかもしれません。
孫正義氏が描く「AI群戦略」とは
こうしてソフトバンクの動向を見ていると、私たちの身近な携帯電話会社のソフトバンクのイメージとは大きく異なります。
しかし孫正義氏の頭の中ではこれらが繋がっているようです。
これを孫氏は「AI群戦略」と呼んでいます。
AI群戦略の説明を引用するとこういうことのようです。
出資先の企業はお互いの強みを生かしながら新サービスを共同開発したり、相互の顧客を融通しあったりする。
この繰り返しによって相乗効果を生み出す。世界のワンバーワン同士が組めば、圧倒的に強いサービスが実現できるという考え方だ。
ここで「世界のナンバーワン同士」という言葉が出てきますが、ソフトバンクが投資してる企業のほとんどは、まだまだ一般には知られていない企業ばかりで、とてもワンバーワン企業とは思えません。
現在、世界のナンバーワン企業はGAFAと呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook、Appleです。
ではなぜ、孫氏はこのGAFAには出資しないでしょうか?
おそらく孫氏の中ではGAFAは「今現在のナンバーワン」なのでしょう。
しかしソフトバンクが出資している多くの企業は、次の時代でナンバーワンをとるであろうと期待される企業なのでしょう。
GAFAは「インターネット時代の勝者」であるとすれば、ソフトバンクが出資するのは「AI時代の勝者」なのです。
この特集記事の最後に孫正義氏のインタビューが載っています。
それによると孫氏の考えは
「AIは人類史上最大の革命だ。AIを制するものが未来を制する。10年後はAIの時代。ならば1日でも早く取り組んだ方が勝つ」
というものです。
これを読むとソフトバンクが常に先手を考えて行動できているもの納得がいきます。
ガラケーからスマホの転換する絶妙のタイミングで携帯電話会社を手に入れ当初はソフトバンクがiPhoneを独占販売することができました。
iPhoneが発表された当時の携帯電話会社は「あんなもの売れるわけがない」と気にも留めなかったといいます。しかしわずか数年でガラケーは駆逐されてしまい、今ではdocomoもauもiPhoneの販売代理店のようになってしまっているのですから。
そう考えると日本の大企業の中でもソフトバンクは行動力がある特殊な会社だといえます。
日本の家電メーカーの多くは高度成長期の成功体験から脱することができず、今では見る影もありません。
これから本格的に訪れるAI時代はソフトバンクの天下になるかもしれませんね。