2018年は三大メガバンクで2万人を超える人員削減計画を発表し世間を驚かせました。
この件に限らず、最近は「もうすぐ人間の仕事の多くがAIによって奪われる」というニュースをよく見かけますね。
果たして本当にコンピューターに人間の仕事は奪われてしまうのでしょうか?
こんにちは! 松田軽太です。
ということで「AIが世界中に広がった世の中はどうなるのだろう?」と気になった矢先に鈴木貴博氏の著書「仕事消失」という本が目にとまりました。
鈴木貴博氏は百年コンサルティングという会社を経営している経営コンサルタントです。そんな経歴の鈴木貴博氏が経済学という視点で、AIが普及することで世の中の「仕事」がどのように変わっていくのかを予測した本です。
AI関連の本というと科学者が解説することが多いですが、経済学という視点からの本は
異色だと思います。
ではAIが普及する世界ではどのように人間の仕事が変わっていくのでしょうか?
もし2020年代に自動運転車が実現したら?
まずAIの活用領域として挙げられるのは自動車の自動運転でしょう。
すでに日産がセレナで一部の運転を自動化した車を販売していますね。
セレナは高速道路限定での自動運転ですが、いずれAIの進化によってもっと自動運転できる範囲は広がっていくでしょう。
このように自動運転が進化した世の中では、真っ先に運転手という仕事が消失すると予測されています。
一口に運転手といってもバスやタクシーといった交通機関の運転手もいれば、トラックで配送している運転手もいます。
クロネコヤマトとアマゾンの対立で物流業界の壊滅的状況が話題になりましたが、現在、運送業界ではトラックの運転手が不足しています。
2020年には10万人ものドライバー不足に陥るといわれているくらいです。
と、こんな状況なので自動運転が普及することで運転手不足を補うことができるのではとの期待もあります。
とはいえ「運転する」ことを仕事にしているのは123万人にものぼります。
これらの人たちの仕事が一気に消失するのであれば、インパクトは大きいですよね。
しかし自動運転で仕事が消失するのは運転手だけに限った話ではありません。
自動運転の普及で交通事故の発生率が減れば、自動車保険の市場も必然的に縮小します。眠眠打破のような眠気覚ましも需要が減るだろうし、ドライバーを常連客としていたコンビニや定食屋やラーメン屋などの小売業や外食産業にも大きな影響をあたえるでしょう。
「運転手」という職業が無くなることで、それに併せて周辺の産業も道ずれになって一緒に市場が縮小するか最悪の場合は消失してしまうのです。
多くの産業が危機に瀕している割に深刻化していないワケ
進化したAIは人間の判断能力を上回るのは時間の問題だと言われています。
シンギュラリティという言葉を聞いたことはありますか?
簡単に言うと、シンギュラリティとは「AIが人間の能力を凌駕する時期」のことを言います。
その時期は2045年だといわれていますが、最近では予想以上にAIの進化するスピードが速いのでもっと前倒しになるのではないかといわれています。
いずれにせよあと20年~30年の間に人間の仕事の多くがAIに置き換わるとしたら、大量の失業者が発生するのでこれはもう大変な事態になります。
「まだ20年も先でしょ?」なんて思うかもしれませんが、過ぎてしまえば20年なんてあっという間ですよ?
多くの人が「そうはいってもAIなんてまだまだ人間の仕事を取り上げるにはほど遠いじゃないか」と思うかもしれません。
例えばスマホに搭載されているAIに向かって「OK Google。営業所別の売上を集計して」と言っても集計してくれません。だから「まだまだ先の遠い未来の話」だと感じてしまうのです。
でも20年後であれば、事情が変わっている可能性があります。
過去にもそのように油断することで時代に取り残されて消えていった産業は多くあります。
例えばデジカメの普及でカメラはフィルムの市場は跡形もありませんよね。
iTunesの登場でイギリスの大手音楽CDショップのHMVは1921年創業の老舗ですが、2013年に倒産しました。
日本の例で言えばiPodの登場でソニーのMDもなくなりました。
携帯電話にいたっては、スマホの登場からわずか数年で壊滅的になりました。
いずれの産業で共通するのは「まぁ、そうは言ってもそう簡単に我が社の製品はなくならないよ」という根拠の無い楽観だったのです。
しかし破壊的イノベーションは、進みだすとトンでもない速さで既存の市場を喰い荒らします。そしてそれに気がついた時には手遅れとなるのです。
ロボットよりもAIが先に職場を奪っていく
人間の仕事を奪っていくのはAIとロボットですが、その進化はAIの方が早いのです。
自動車工場などの製造業では既にロボットが導入されていますが、今はまだ、製造ラインの一部分の担っています。
単機能なので、人間のように足で歩いて移動して、手で細かな作業する汎用性はありません。
AIとロボットが進化していく過程は足(移動)、脳(AI)、腕(作業)、顔(表情、感情)、指の順序だと言われています。難易度の低い順に進化していくのですが、一番複雑なのは指なのです。
確かに指ってものすごく繊細なことができますよね。
針穴に糸を通したり、玉子の殻だけを割って黄身の取り出したり、米粒に絵を描いたりと何でもできます。
単機能の専用ロボットは出来るでしょうが、一つのロボットでこれだけ多彩なことをできるようにするのは確かに難しそうです。
足の部分ですが、自動車の自動運転もそうだし、工場や倉庫の中ではフォークリフトや荷台のような運搬用の機械も自動化されるでしょう。
そして次の脳ですが、AIの進化はさらに加速しています。
実際、ソフトバンクの孫正義氏は「AIの世界の元締め」を目指して10兆円にも及ぶ巨額の投資を世界中で行っています。
オックスフォード大学のオズボーン教授が「消えてなくなる職業」の一覧を発表したのは2013年です。
AIが囲碁の名人に勝利したのは2015年です。
これ以降、深層学習(ディープラーニング)が脚光を浴びたので、現在はオズボーン教授の想定よりも速い勢いで仕事がAIやロボットに奪われていくと考えられています。
皆さんの実際の職場でもITが仕事を奪ったのでないでしょうか?
20年以上前のテレビドラマでは、OLの仕事といえばコピーとお茶汲みのシーンがよく描かれていました。
でも今やそんな職場も少ないですよね?
会議資料はパワポで作ってプロジェクターで投影されるので、何十枚もコピーをする必要はなくなりました。
昭和の頃は商品台帳に入庫・出庫・残数みたいな記録を手書きして在庫管理していましたが、現在は在庫管理システムが導入されて手書きの帳簿も不要になったし、小さな会社でもExcelでそういった管理をするようになっていますよね?
これらのIT化で間接部門の人員は減っているので、それと同じようにAIが進化すると、もっと広い範囲の職場で人の代わりにAIが入り込んでくるのです。
実際、最近ではRPA(アール・ピー・エー)という事務処理ソフトウェアを多くの企業が導入しようとしています。
RPAとはロボティクス・プロセス・オートメーションの略ですが、要するに事務処理を代行するロボットです。
実はRPA自体は数年前から海外では導入されていました。
しかし日本では正社員は解雇できないので、やみくものRPAを導入して事務作業を無くてしまうと社員の仕事が減ってしまうので、躊躇されていました。
しかし、近年、日本は人手不足が深刻化しており、そこでRPAが脚光を浴びるようになったのです。
こういうものは一度、便利さを理解してしまうと、導入がどんどん進んでいきます。
Excelで自動計算している職場で、今さら電卓を叩いて計算する人はいませんよね?
ということで経理や営業事務といった内勤の事務作業という仕事がRPAというソフトウェアのロボットに置き換えられてしまうでしょう。
しかしRPAはAIと違って自分で仕事を考えて処理することはできません。
今のところは人間が処理手順をプログラムして、それを正確に再現するだけなのです。
しかし深層学習(ディープ・ラーニング)という自己学習の手段を得たAIは、いずれ自分で仕事の内容を理解して最善の仕事の方法を考案するようになるでしょう。
そういう時代がくると銀行や保険会社や税理士といった肉体的な作業を伴わない仕事がAIに奪われるのです。
小説家や映画監督や音楽家や画家といった芸術系の職業もAIができるようになるでしょう。
膨大な音楽のパターンを解析して、感動する音楽を作ることはすでに実現しています。
これだけCGが発達すれば、もはや俳優もCGに置き換えることは可能でしょう。
そしてAIが俳優のように演技するのです。
それに俳優やアイドルがCGに代替されれば、セクハラやらドラッグといった不祥事でCM契約が吹っ飛ぶ心配もなくなるでしょう。
もちろん、鈴木貴博氏は経営コンサルタントが本業なので、この予測通りにAIが進化するかは分かりません。
実際にAIを開発している開発者からすれば「まだまだ現在のAIではそこまで出来ないよ。完全自動運転だってせいぜい高速道路が限度だ」と思うかもしれませんが、鈴木貴博氏が危惧しているのは、時期の問題ではなく「いずれこういう時代が来る可能性が高いから今から検討すべき」ということなのです。
AIやロボットに人間は仕事を奪われたら、新しい仕事に就けばいいのか?
正直なところ、人間の仕事がAIやロボットに奪われるという事態は避けれらないと思われます。
そりゃ、AIは風邪をひいて休むことのなければ、残業したくないから帰るともいわないし、見積書の金額を一桁間違えて書くこともないのですから、経営者としては人間よりも扱いやすいでしょう。
ひとつの産業がなくなっても、新しい産業が生まれるので、人は新しい仕事に就くことができると言います。「なるほど、そうだよね」と思っていましたが、そこにはタイムラグがあることを忘れがちです。
かつて農地が羊毛のために牧場に代替されると農夫は職を失いましたが、それらの人々は毛織物職人になったといわれていますが、その移行にかかった期間は数十年だったのです。
自動運転の普及で職を失ったドライバーやAIで職を失った事務員が、すぐに新しいジャンルの仕事に就けるかというとそんなワケはないのです。
AIで仕事を失った事務員や運転手の中には、AIをプログラミングする仕事に転職する人も居るでしょうがそれは一握りのこういう時代の流れを予測して事前に準備をしていた人に限られるでしょう。
ロボットを規制することはできないか?
このままAIとロボットが職場を奪ってしまうと暗澹たる未来が来るしかないなのですが、鈴木貴博氏はそのための対策を提示しています。
それは「ロボット経済三原則」というものです。
原則1:すべてのAI/ロボットの利用権を国有化する。
原則2:AI/ロボットの産業利用に対しては、その働きが人間何人分かを計測し、その仕事に応じた賃金を国に支払う。ただしAI/ロボットの家庭利用/私的利用については、特に賃金を支払う必要はない。
原則3:AI/ロボットに支払われた給料はそのまま国民に配分する。
(鈴木貴博著:仕事消失(講談社+α文庫より引用)
この内容がこの本の大きな結論になります。
ネタバレになるので敢えて詳しくは書きませんが、簡単に言えば「ロボットに税金かけて徴収して国民に配れば公平になるんじゃね?」というものです。
2017年にマイクロソフトのビル・ゲイツの同じようなことを言っているので、あながち的外れではないのでしょう。
日経ビジネスでもビル・ゲイツ氏の意見が取り上げられています。
鈴木貴博氏の解説では自動車がロボットへの課税に近いと言います。
現在も自動車は個人がお金を出して買って所有していますが、道路で走らせるためには車検だとか自動車税とかガソリン税だとか維持しているだけで何かと税金が掛かります。
同じように考えればAIやロボットにも税金をかけることが可能だろうというものです。
まぁ、確かに言われてみれば、自動車以外にも買ったあとでも税金のかかるものといえば家なんかそうですよね。
もちろん実施するには、それ相応の議論が噴出するんでしょうけど。
いずれにせよ考えればいくつかの解決策はあるのかもしれませんが、何しろAIやロボットは進化が早いので手遅れになる前にみんなで考えるべきなのでしょう。
人類総失業時代が訪れるその前に。
この本の初稿というべき本に「シンギュラリティの経済学」があります。
興味がある方はこちらもどうぞ。
「シンギュラリティの経済学」では本書では書かれていない課題についても検討されています。