昨今、多くの経済誌で『これからの時代はデジタル・トランスフォーメション(DX)が事業の大きな要素になる』と言われていますね。
こんにちは! 松田軽太です。
今までIT技術が経営に直接、影響するのはサイバーエージェントやヤフーや楽天などの情報サービス業くらいで、製造業や小売業にはあまり関係ないと思われていました。
ところがです。
IoTの登場によって製造設備にもセンサーが設置され、今まで認識できていなかった製造設備の稼動状況がリアルタイムに分かるようになったりと、IT技術が事業そのものに影響を与えるようになり、経営的にもIT技術の活用が無視できなくなってきました。
小売業であれば、倉庫内作業やロケーション管理の効率化といったような部分でIoTの活用を検討されつつありますね。
このように今まで以上にIT技術の重要が高まる時代に『ひとり情シス』の立場はどのようになっていくのでしょうか?
今回も福田敏博氏の著書『ひとり情シスのためのRPA導入ガイド』を参考に考えていきます。
前回の記事はこちらをご参照ください。
『ひとり情シスのためのRPA導入ガイド』は後半部分に重要なことが書いてある
さて『ひとり情シスのためのRPA導入ガイド』ですが、実は後半の「Chapter4」以降に『ひとり情シス』にとって非常に重要なことが書かれています。
日本の企業の99.7%は中小企業です。
大企業には情報システム部というITの面倒をみる専門部隊がありますが、大企業と違って余裕のない中小企業では『ひとり情シス』と呼ばれる、ほぼ独りで会社の基幹システムやパソコンなどの情報システム関連の管理を任される(実際は丸投げされている)人がいます。
今のところ情シスの地位は低い
しかし残念ながら『ひとり情シス』で必死に頑張っている人も、意外と会社の中での地位は低いのが現実です。
特に製造業や小売業のように情シスが会社の本業に関わらない業界では直接、利益をあげることができないので「コストセンター=金喰い虫」と揶揄されること多いのです。
それはDX時代が始まった現時点でも、今のところ、変わっていません。
会社の中での情報システムの扱いについての哀しき実態はこちらの記事に詳しく書いていますので、ご覧ください。
近い将来、『ひとり情シス』の価値が高くなる可能性がある
というわけで現時点では忙しいばかりで貧乏クジみたいな扱いの『ひとり情シス』ですがこれから先は『ひとり情シス』の価値が高くなっていく可能性があるのです。
①IT人材が絶望的に不足している
日本は空前の人手不足ですが、IT人材は40万人にも及びます。
そんな世の中ですから、情報サービス業以外の業種の会社にはITに興味のある人材は集まるワケがありません。
ところがこれからの中小企業はDX時代のIT革命の波に飲まれていくのは必然ともいえます。
ここで今まで『ひとり情シス』のように社内のIT人材を冷遇していたツケがまわってくるのです。
先ほども言いましたが製造設備にはIoTというIT革命が浸透していきます。
事務処理では本書のテーマでもあるRPAが普及していきます。
つまり社内にもどうにかしてIT人材を確保せざるをえなくなるのです。
なので本格的なDX時代になれば、必ず情シスの価値があがるでしょう。
その中でも特に『ひとり情シス』の価値が高まるのです。
②『ひとり情シス』の強みは「独りで何でもできる」こと
大企業のシステム部とは違い、中小企業の情シス部門は慢性的に人手不足なので、社内の情報システムに関わる(と思われていること)を全部、自力で解決しなければなりません。
時には社長のiPhoneの機種変のデータ移行とか「これって情シスの仕事じゃないんじゃないの?」という雑用までやらされます。
でも、これってある意味では「コンピューターのことはアナタに聞けばだいたい分かる」という信頼の証でもあるのです。
(いや、そういう信頼は要らないんで・・・と思うかもしれませんが)
この状況に持ち込めたら、少なくともコンピューターに関する信頼は持てたということになるのでアナタの情報化投資の提案書が通りやすくなるでしょう。
つまり、ある意味でアナタの理想とする社内システムを思い通りに構築することができるということです。
これは大企業ではなかなか味わえない充実感だろうと思います。
そして幸か不幸か中小企業の経営陣にはIT技術の興味のある役員は居ないことが多いので、自社にとってその情報化技術が適切なのか判断できません。
ということはムチャクチャな金額でなければ、アナタの思い通りに情報システムを構築できるということなのです。
もちろん導入するからには責任が伴いますが、それでも自分が思い描いたシステムを構築できるというのは何ともやりがいが多く楽しいとは思いませんか?
『ひとり情シス』というくらいなので、仕事の量は少ないないかもしれません。
しかし、その分、なんでも自分でやりことができる(というかやらざるを得ない)ので、多方面に渡る経験ができるということでもあります。
つまり自然と『スーパー多能工』として成長できるのです。
③経営とIT技術をつなぐ架け橋になる
経営者はIT技術に詳しいわけではありません。
むしろ出来ることなら関わりたくないと思っているのではないでしょうか?
でも、それは仕方がないでしょう。
製造業や小売業であれば製品を供給することが社会的な使命ですから、IT技術に詳しくないのは当然といえば当然です。
しかし何度も言ってますが、これからの企業経営ではIT技術の活用は切っても切れないものになっていきます。
そこで『ひとり情シス』の出番になります。
社内でIT技術に詳しいのはアナタしか居ません。
なのでアナタには「経営とIT技術をつなぐ架け橋」になることが求められるようになる時代なのです。
そのために必要になるのは経営的なセンスです。
アナタに経営者になれと言っているのではなく「経営者であれば、どのようなIT技術を事業に役立てるだろうか?」と考えて、それを経営者にアドバイスするのです。
いわば会社の中で「頼れるIT技術の知恵袋」になるのです。
そしてそれは『ひとり情シス』であるアナタにしか出来ない役割だといえます。
まずは目先の課題を解決しながら徐々に広げる
IT技術の活用と言っても「よし!会社の中の全ての課題を一掃できる管理システムを構築しよう!」などと大風呂敷を広げない方が良いでしょう。
それだとウォーターフォール開発のように「すべての完成図が整えて、大規模なシステムを開発する」ということになってしまいます。
大規模開発となると設計して完成するまでに1年とか2年とか長い時間を要します。
開発期間が長いということは開発費用も掛かるということです。
しかし、現代はビジネス変化も非常に早い時代です。
1年とか2年もかけて開発していたら、その途中で経営判断が変わる可能性が高いのです。そしてそうなってしまうと、途中まで構築したシステムを設計しなおすことになってしまいます。
スゴロクで言えば「振り出しに戻る」ってことです。
なので、これからの時代に求められるのは、まずは目先の困っている課題を片付けて、そこれから徐々に開発範囲を広げていくアジャイル開発と呼ばれる手法です。
ちなみに「アジャイル」とは「俊敏」という意味です。
状況に合わせて小まめに変化させながらシステムを築いていくのです。
アジャイル開発では設計者自身がシステムを構築する
小さなサイクルで開発していくので、アジャイル開発では設計者自身が自分でシステムを構築していきます。
そこで困るのが「そもそもシステム設計をできるのかどうか?」ということになります。
要件だけまとめて、そのあとはSIerに丸投げというワケにはいかないのです。
業務フローを描いて業務全体の流れを把握し、その業務に必要な画面構成やデータ項目を洗い出して、データベースを設計していく必要があります。
SIerに丸投げすることの弊害は、こういった設計の勘所が養われないという部分でしょう。
幸い最近は超高速開発ツールとかローコード開発ツールと呼ばれる開発基盤が整ってきています。
ローコード開発ツールというくらいなので、ほとんどナゾの英文のコードを書かなくてもシステムを構築できるようになったのです。
代表的なローコード開発ツールを挙げておきます。
・PowerApps(マイクロソフト)
・Wagby(ジャスミンソフト)
・Web-Perfomer(キャノンITソリューション)
・楽々フレームワーク(住友電工)
・TALON(HOIPOI)
・Outsystems(BlueMeme)
・Magic Xpa
・GeneXus
まだ他にもツールはありますが、ひとまずこんなところだと思います。
もちろんこれらのツールにはそれぞれの特徴がありますし、おそらく操作方法や設計方法の好みもあるので相性が良いツールを見つけ出す必要があります。
ただし、全てのツールに共通するのは「あくまでも開発効率が良いだけであって、なんでもかんでも自動的にシステムを作ってくれる魔法の杖ではない」というところです。
この辺りの事情はRPAにも通じるところがありますね。
あくまでも作る人が「こういう仕組みを作りたい」という明確な目的を持つことが必要だということをお忘れなく。
いずれにせよRPAやローコード開発ツールを使いこなせるようになれば『ひとり情シス』の未来は明るくなると思われます(希望もこめて)
『ひとり情シス』についての関連記事はこちらになります。
併せてお読みいただければと思います。

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