なぜ日本企業のERPは『DX-2025年の崖』から転げ落ちたのか?
ITベンダーから届くメールや資料には毎日のように「2025年の崖を克服する」といった文字が躍っています。
こんにちは! 松田軽太です。
ということで『2025年の崖』と書かれたメールのタイトルを集めてみました。
・2025年の崖の克服ポイント
・2025年の崖を回避
・「2025年の崖」を乗り越えられるクラウド移行ロードマップ
・2025年の崖回避 SAPのAWS移行
・「2025年の崖」克服に向けたハイブリッドクラウドとは
・SAPやOracleにも「2025年の崖」?
・「2025年の崖」を飛び越える翼になる!
・不安は尽きない「2025年の崖」問題にワンランク上の運用管理
・2025年の崖はもはや好機?
・「2025年の崖」への不安を解消し、枕を高くして眠りたい!
・2025年の崖、レガシー対策に選ぶのはこれだ!
・2025年の崖と日本企業のDXをめぐって
・迫りくる「2025年の崖」に対処せよ
・「2025年の崖」を乗り越えるための「DX推進指標」
・「2025年の崖」に転落するSIerはどこか
・『2025年の崖』を克服するための羅針盤
・「2025年の崖」は避けられない!
・「2025年の崖」問題を乗り越える戦略思想
・「2025年の崖」を越えるための業務プロセス改革
・2025年の崖を越えるためにエンジニアが知っておくべき開発・運用知識
と、まぁ、こんな感じで「2025年の崖」という言葉の入ったメールがわんさか届いています。
ところで『2025年の崖』って何?
『2025年の崖』とは2018年9月に経産省が『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』というタイトルで発表した資料です。
ざっくり説明すると「数十年も昔から使い倒している基幹システムが足かせとなって、事業の足を引っ張りその結果として2025年以降、最大で12兆円の経済的損失を被るから、今のうちになんとかしないとヤバイぞ!」という警告です。
なぜその期限が2025年なのかというと、ドイツ製ERP「SAP/S3」の保守期限が2025年となっているからです。
ところが最近、SAPが保守期限を2年延ばして2027年までになりました。
■SAP、S/4HANAへの移行期限を2年延長し2027年末に、顧客の要望を受けて決定
「良かった!崖から転げ落ちる猶予が2年できた!」と喜んでばかりではいられません。
2年なんてあっと言う間なので「では2年後に考えよう」と先延ばししないことが肝心です。
またSAP以外にも大昔から使い続けているERPやメインフレームの基幹システムなどのレガシーシステムもありますが、いずれにせよそれらのメンテナンスを出来るのは50歳以上の高齢エンジニアが多いので、7年もすれば定年退職してしまいレガシーシスステムをお守りできる人が居なくなるのですから、今からなんとか手を打つ必要があるのです。
『なぜERPに憧れてしまったのか』という苦悩が深い
日本にERPという統合業務パッケージを紹介したのは本間 峰一氏だと言われています。
本間氏は生産管理を得意とするコンサル業を営まれています。
また『誰も教えてくれない「生産管理システム」の正しい使い方』という書籍も執筆されている方です。
そんな本間氏ですが、下記のサイトの記事『なぜERPに憧れてしまったのか』に日本にERPを紹介してしまったことへの苦悩が綴られいます。
■なぜERPに憧れてしまったのか
記事から引用させていただくと
日本でERP(統合業務パッケージ)が広まったのは2000年前後のことでした。
そのきっかけのひとつに、私が中心となって出版した「SAP革命(1997年)」という本があります。
この本が出版されるまではERPという言葉を知っている人はほとんどい ませんでした。この本が出版されたのちに、急速にERP導入を検討する企業が増えました。
今、考えるとこの本に書いたことは間違いだったのではと反省しています。
何が間違いだったのかというと受注生産対応を強みとする日本企業にはそもそもERPのビジネスモデルは向いていていないかったからです。
現在無理してERPを導入した企業で業務混乱が多発しています。
この話は昨年出版した「誰も教えてくれない生産管理システム の正しい使い方」でも触れましたが、日本企業の強みを無視した安易なERP期待論を展開してしまったことに自責の念を感じています。
この部分を読んだだけでもSAPを日本に紹介したことの後悔が滲み出ていると思います。
まぁ、良かれと思って紹介したERPが、20年後に経済産業省から「2025年の崖」と揶揄されてしまったのですから、SAPをはじめとするERPという概念を日本に紹介した当事者としては、苦悩しますよね。
ちなみこれがSAPを日本で初めて紹介した書籍です。
ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)からの提言『日本企業のためのERP導入の羅針盤(ニッポンのERPを再定義する)』
そのほかにもジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)が「ERPの本来あるべき姿での導入にむけた指針を作成」という目的で『日本企業のためのERP導入の羅針盤(ニッポンのERPを再定義する)』という書籍を発刊されました。
1990年代後半から、多くの日本企業が、レガシーシステムの刷新とBPR推進を目指してERPの導入を行ってきましたが、本来の目的であったリアルタイム経営、データを活用した経営を実現している企業は必ずしも多くありません。
現在、IoT、AI、ビッグデータ解析、クラウド、RPA、ブロックチェーンなどのデジタル技術が急速に広がっており、日本企業がグローバル競争で勝ち残るため、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくことが急務となっています。
しかしながら、DX実現の基盤となる基幹システムのデジタル化は、日本において必ずしも進んでいるとは言い難い現状が指摘されていま
す。このような背景のもと、JSUGはSAPジャパンと協力し、ERPの本来あるべき姿での導入にむけた指針を作成するべく、2018年7月、『ニッポンのERP再定義委員会』を立ち上げました。
幅広い知見を集めるため、先進的な取り組みを推進しているユーザー企業、ERP導入に多数携わってきたパートナー企業、SAPジャパン、そしてJSUGから集まった有識者12名が、半年間にわたり率直な議論を重ねてきました。
それぞれの有識者が過去に携わったERP導入における課題・問題点を見つめなおし、真摯に振り返って根本原因を分析し、近年の国内外の優れたERP導入成功事例を探求することで、これからの日本におけるERP導入の指針を、「目的」「導入」「体制」「活用 」の4つの軸で提言としてまとめました。
SAPユーザー自身が今までのERP運用について反省も踏まえてこの20年を振り返っている貴重な書籍となっています。
なんと134ページもある大作です。
『日本企業のためのERP導入の羅針盤(ニッポンのERPを再定義する)』は下記のURLからダウンロードできます。
これからERPの導入を検討されている会社もあるかと思いますが、この本の「第5章 ニッポンのERPを再定義する」79ページからまとめられている「最終提言 ERPの導入」という部分が参考になると思います。
ザッとまとめておきます。
ERPの導入するための考え方
【最終提言 ERPの導入】
①業務・ITの関わり方
ユーザーニーズを聞くのではない、ビジネスニーズを理解する
②短期間・スピード
意思決定のスピードはコストに勝る
クラウドを積極的に利用する
テンプレートを活用する
③アドオン防止
アドオンの目標値を設定する
低コスト・変化対応が可能なアーキテクチャーを理解する
④製品理解
「SAPでできることを理解する」が大前提
Gapは「業務ヒアリング」ではなく「業務説得」で解決せよ
・・・とこのような提言がされています。
つまり20年前に『よく分からないままSAPを導入した結果、現場から「使いにくい」と苦情を言われて現場業務に合わせてカズタマイズした結果、20年後にカスタマイズ地獄に陥った』ことへの後悔がよく顕れていると思います。
ERPを導入するための社内体制
84ページからはERPを導入する体制について提言されています。
【最終提言 ERPの体制】
①全社への影響力
経営層がオーナーとなり合意形成・実行をトップダウンで進める
プロジェクトリーダーは次期経営幹部候補が務める
”暗黙知”も意識的に形式知化する
②プロセスオーナー
業務プロセスごとにプロセスオーナーを設置する
(SAPモジュールごとではなくプロセス単位)
プロセスオーナーにToBeに基づく要件定義の権限を持たせる
③パートナーとの関係
ユーザーとベンダーは、真のパートナーシップを築く
④過去のERP導入経験
SAP導入経験・経験者を積極的にプロジェクトに活用する
ERP導入・BPRのノウハウを継承する
これはERPの導入は単にコンピューターシステムを買うという行為ではなく
会社の業務そのものをERPに委ねることになるという会社にとっては大きな
変化を伴う行為です。
なので経営層が正しくERPの概念を理解することが大切なのです。
間違っても「俺はITのことはよく分からんから、お前らに任せた!」という
ITオンチ丸出しの丸投げは厳禁です。
ERPの活用方法についての提言
92ページからはERPの活用方法について提言されています。
【最終提言 ERPの活用】
①効果を出す・出し続ける
導入に関わるROI(等したい効果)を可視化する
導入の目的を一過性に終わらせず、効果を発現させる取り組みを維持する
可惜なトレンドやERPの進化をキャッチアップする仕組み・体制を作る
②委員会の設置
導入時の目標の進捗、透明性、責任を担保そ、新たな課題や事象に対応していく
③体制の維持
プロジェクトチームはERP稼働後に解散するケースが多いが、導入効果を出すために
必要な体制を組み、取り組みを継続する
④デジタルへの対応
AI、IoTなどを活用したデジタル対応をタイムリーに進めていくために、導入後の
ERPを進化させ続けることが重要
ERPを導入する場合、多くの会社でERP導入プロジェクトチームが組まれると思います。
大抵その会社のエース級の人材が充てられるのですが、無事にERPが稼働すると
いずれプロジェクトチームは解散してしまいます。
しかしERPは動き出してからが本番です。
高い情報化投資を行ったのですから、ただERPを導入し稼働させるだけではなく
「いかにERPを使って効果を引き出すのか?」が本当のERPの役割なのです。
情報システムは導入してからが始まりになる
ここで挙げられている課題は、ERPだけにとどまらずRPAやAIやIoTなどのあらゆる
ITシステムの導入について共通の課題だと言えます。
これから先も、きっと新しいITシステムは生まれていくでしょう。
新しい考え方のITシステムを社内に取り入れるのには、大きなパワーが必要です。
・どうやってこのITシステムを社内に取り入れるのか?
・果たしてこのITシステムは当社に事業に適しているのか?
・どうやればこのITシステムが社内に定着するのか?
上記のような課題をひとつひとつクリアすることが必要なのですから。
そして実際には運用が始まってからの方が重要なのです。
なぜなら運用は持久走のようなものです。
一つのITシステムを導入して、運用が定着したら5年~10年は使うのではないでしょうか?
ということは「運用している期間にいかに効果的な使い方が出来るか?」が重要になります。そこを忘れてしまうと2019年のRPAのように「幻滅期」と揶揄されてしまうのです。
ERPを日本に紹介した本間氏は超高速開発ツールに可能性を見出した
さて冒頭にご紹介させていただいた本間氏はブログ記事では、最後にこのように締めくくられています。
その後私は「超高速開発ツール」というシステム構築ツールに巡り合いました。
超高速開発ツールはERPのように業務の標準化をベースにしているのではなく、業務処理の標準化をターゲットにしています。
この発想は目から鱗でした。日本企業のシステム開発にフィットするツールはERPではなく超高速開発ツールなのではないか。
実際に複数企業のシステム開発に超高速開発ツールをつかって取り組んでみましたが、たしかにこのアプローチなら業務システムを安く開発できるうえに開発の自由度は高まります。
ぜひ皆様も超高速開発ツールの活用を検討してみてください。
本間氏は業務に合わせて自由なシステムを構築できる超高速開発ツールに着目しているのです。
確かに2000年当時は今ほど完成度の高い超高速開発ツールは無かったのでしょう。
超高速開発ツールを導入した成功事例をご紹介しておきます。
■OutSystems
ノーと言わないIT部門が得た、社長表彰よりうれしい「力の源」とは
トヨタ攻略に自信見せるベトナムITの雄、超高速開発技術者を千人体制に
「OutSystemsとGrapeCityによって挑む基幹システムのモダナイゼーション」
■Web Perfomer
工場の改善活動を支える新システム 開発スキルと採用技術の標準化を見据えて柔軟性の高い開発ツールを採用
人間のコードはやっぱりバグがある、自動生成ツールのコードの方が信頼できる
■GeneXus
メインフレームからオープンシステムへ全面刷新|脱COBOLの新たな開発環境として「GeneXus」を採用
AS/400からクラウド基盤を使った新システムへ移行|アジャイル開発とEDIパッケージで短期間でのシステム構築を実現
■Magic xpa
アイカテック建材が超高速開発ツールを採用 Javaの半分のコストで基幹システムを構築
永谷園が超高速開発ツールとOCRでiPadによる「賞味期限確認システム」を構築
■FileMaker
生産管理の「属人化」解決を目指す--信州ハムがシステム内製化に踏み切った理由
JALのパイロット自らが作るFileMakerデータベースが訓練の質を高め安全な運航を支える
サンリオの「キティちゃん」を支えるデータベースのチカラ
ということでこれからERPを導入される会社もあると思いますが、ERP導入の目的をきちんと考えてみる必要があるといえます。
もし「ウチの会社はローカルルールが多いからERPでの業務運用は難しいなぁ」と思うのであれば、超高速開発ツールでシステム構築するという選択肢もあると思います。